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御堂筋note magazine

Vol. 10

経営者となる準備の手順

創業経営者の中にも、長期間にわたる明確な行動のスケデュールや計画をイメージしている人がいるかもしれませんが、そうした人は珍しいでしょう。その点、2代目の場合は意識して、今後の長期にわたる自己の経営者としてのキャリアを考えていくことができるかもしれません。2代目経営者の経営ライフ・ステージの意味合いは、5つにまとめられます。

1. 経営者となるための準備期間 2. 自分の代になったときの経営チームの構成や経営への取組み推進方法も含めた具体的な経営の承継期 3. 実際の経営への取組みから自己の経営の確立へ向けた活動時期 4. 自分の世代で果たすべき主要なテーマに取り組む、また変革の指揮をふるう経営の充実期 5. そして次の世代への承継に向けた準備期

こうした時どきで何をしていくべきかを、特に自分が社長になる場合の承継場面を中心に見ていきましょう。

(1)2代目経営者の経営ライフ・ステージ

2代目経営者のライフ・ステージは、以下のようにイメージされます。

2代目経営者の経営ライフ・ステージ

(2)承継準備期の過し方

ⅰ 他人の飯を食う
学生時代の過し方はともかくとして(後述※)大学を卒業したら必ず、一度はよその会社に就職しなさい。できれば大企業が良いでしょう。つまり、俗に言う他人の飯を食うということです。そこで大きな組織の運営のしかたを体で体験するのです。なぜなら、最初の社会体験がその後のあなたの全キャリアを通じてのものの考え方、対処のしかたの原点になるからです。
中小企業の弱点は、ものの考え方が近視眼であることと、書類がないことです。その点大企業は、前者はともかく、後者については仕事をする上では必ず書類に基づきますから、そのような習慣が身につくでしょう。

ⅱ 現場で下積みをする
次に会社に戻ったら、営業、倉庫、現場での丁稚からキャリア生活を始めなさい。決して実習などという程度ではなく、会社の核となる部署で数年ずつ正式な平社員として働くのです。そして現場、社員の苦労を実体験するのです。
その中から現場の抱える問題、各社員の人柄、気質を掴んで行って下さい。社員の方々と車座になって一杯飲み、語り合い、たまには社員の家に泊まるのです。これらは将来経営を担っていくときに、必ずあなたの財産になる貴重な体験になるでしょう。
また会社に入れば、家族でも、社長、専務といった公的な関係です。けじめをつけた態度、言葉遣いをしなさい。間違っても口げんかなどしないように。社員、お客様、仕入先様が眉をひそめています、悲しんでいますよ、あなたの人間性が疑われます。

ⅲ 専門担当を決める
ひととおり各部署を経験したら、自分の専門の担当を決めて行って下さい。これは、会社に入るとき、あるいは入ってすぐに決まっているかもしれません。いずれにせよ、その専門では誰にも負けない卓越した技量を身につけるように専心して学び、訓練を重ねて行って下さい。経営者としての権威の源のひとつは、やはりトップが最も仕事ができるという点にあるからです。

ⅳ 経理と資金を体験する
さて、最後の仕上げとして、経理部門を経験しておいて下さい。経理部門で学ぶ際に最も重要なことは、月次決算の内容(損益計算の結果、貸借対照表における各資産負債の動き)が分かるようになり、そしてお金の動き(資金が増えた、減ったという事実や結果)を実感し、その間の関係性を体得することです。つまり、「あぁ、こうなるとお金が増えるんだ!減るんだ!」という感覚です。そこから「こうすればお金が増える。こんなことをするとお金が減るんだ、だからしてはいけない。」という行動規範を身につけることが大事なのです。ですから必ず自分で回収や支払の管理をし、現金と預金の管理をして下さい。そうしてこそ初めて経理が分ったといえるのです。また自分で資金繰りをすることで、銀行との折衝も自ら当たることになり、銀行のものの考え方やそれに対する対処のしかたも分かるようになります。
経理業務で体得する2つ目の目標は、貸借対照表を事業に必要な資金の投下とその調達状況としてダイナミックに捉えることと、損益計算書において、粗利率、固定経費といった考え方を理解し、採算の感覚を身につけることです。その上で部署や得意先や商品といった切り口で細かく分けた損益を掴む感性を身につけることです。
最後に、毎月の業績の管理のための資料を自分で作成し、経営成績の良し悪しの原因分析をできるように訓練することです。こうした能力を身につけることによって、実際に経営を担当したときに、業績のチェックのしかたと必要な手の打ち方が分かるようになるでしょう。

ⅴ 子会社を経営する
もし状況が許すならば、子会社を経営したり新たな子会社を設立運営したりすることも大変な勉強になるでしょう。それは正式の事業承継に先立って、経営を実際に担当する機会をもつということです。場合によると自分の腹心の部下を育成できる機会になるかもしれません。子会社経営における成功は大きな自信になるでしょう。もし失敗した場合でも、それが許容される範囲であり、また多くの反省をあなたにもたらせば、良き機会であったといえるでしょう。

ⅵ 学生時代の過し方(補足)
学生時代については3つのことを言っておきたいと思います。1つ目は、大学の人脈は一生を通じてその人の財産となりますから学校選びはとても大事だという点です。2つ目は、アルバイトをするということです。それもできるならお客様と接する飲食などのサービス業や、物づくり、現場作業などを体験しておくのがいいでしょう。3つ目は、英語圏への留学です。若いうちに外国での生活を経験しておくことは、人格形成に大変有用ですしこれからのグローバル社会を考えた場合に将来の役に立つでしょう。

(3)経営移行期で取り組むこと

ⅰ 経営の承継の交渉
実際の事業の承継は個々のケースで様々なドラマが展開されるでしょう。スムーズに先代からバトンタッチされる場合、先代が社長の椅子にしがみつき、仲々2代目に譲ろうとしない場合などです。しかし、どのような場合であっても、経営者になるのは、本質では自分で社長の座を奪い取るという側面があることを忘れてはなりません。それは、サル山のボスの交代のような権力闘争の性質が、本質としてその奥底には潜んでいるのだということです。ですから、不幸にして仲々世代交代が起こらない場合には、あなた自身が先代社長と直面して交渉するくらいの気概が必要です。

50歳を過ぎてまだ専務と呼ばれ実権を掌握できていない2代目を見ることがあります。しかし花にも咲き時があるように、人にも時節があります。咲くべきときに咲かなければ、人もつぼみのままで終わってしまいます。
中小企業では概ね40歳を目途に社長に就任すべきでしょう。それより早いことはいといませんが、余りに遅くなるのは感心しません。よく社長が息子へのバトンタッチのことで、「こいつはまだ一人前ではないから・・・」とおっしゃるのを聞きます。しかし経営など、できるようになってからバトンタッチするのでは、永遠にできません。なぜなら、経営は実際にやってみて覚えていくものだからです。

ⅱ 事業の構想
ところで、この時期になれば(もちろんもっと前でもいいのですが)、自分の事業構想の策定を少しずつまとめて行きます。少しずつという意味は、構想がまとまっていくためには、アイデアが出てくる、出たアイデアをさらに具体化していくといった作業には時間がかかるという意味です。アイデアは、蛇口をひねればいつでも出てくるという代物(しろもの)でもありません。色々な情報の収集によるインプットが、頭の中で一定の発酵期間を経て、ある日ポンと湧いてくるものなのです。特に、夜中寝ているときやお風呂で考えごとをしていたり、ぼんやりとリラックスしているときなどによく出てくるものなどです。
こうして出てきたアイデアは、折に触れ(先代)社長や、幹部、相談相手にしている人などにそれとなく打診してみます。こうしたコミュニケーションを通じて考えもまとまって行きますし、周囲とのインターラクション(相互交流)によるアイデアの昇華、共有化、周知がなされていきます。もちろん、事業構想はまた別の機会で述べるように、きちっとした手順で事業構想企画書としてまとめられる必要があります。こうしたことには方法論がありますので、会計事務所などのサポートを得ながら、システマティックにまとめていくのが得策でしょう。

ⅲ 外部活動への参加
最後に、情報収集や自己練磨のための外部活動への参加と人脈の形成について少し触れておきます。これらのテーマは別のところで詳しく触れる機会がありますので簡単にしておきます。2代目経営者といえば、JC(青年会議所)活動などが代表的な社交活動ですが、やりすぎはダメです。やりすぎて仕事がおろそかになるくらいなら全くやらないほうがましです。要は、あなたの本義は何ですか、ということです。
しかし、上質の情報収集のネットワークを持つために、2~3の外部活動に参加しておくことは有益なことです。あなたが尊敬する人の意見や様々な方法で情報収集して、どのような活動に参加するか慎重に選んでください。

ⅳ 事業の引継ぎスケデュールと幹部との人間関係作り
さて、実際に承継時期が決まれば、そのための準備をしていきます。これには周到さが必要でしょう。社長交代の日を Xデイとして、先代社長が専任でやっていた業務の引継ぎ、得意先、仕入先、銀行、業界など社外での重要な取引関係への関与、社内の人事などやっていくべきことの大体のスケデュールを組み立てていきます。
社長になったときのキーポイントとして、幹部との関係が挙げられます。そのため社内の人間関係についてよく検討しておくことが大切です。社長になったときの人事の構想を考えて見ます。理想的には先代社長が、次の世代のために、自分の子飼いの番頭の処遇、息子の補佐役の育成などに配慮を払っておくべきなのですが、現実は諸般の事情もあり仲々そうは行きません。ある程度の時間を掛けて、現番頭幹部から次の右腕・左腕に引き継いで行かねばならないのです。そのため先ず、今の幹部との意思疎通をきちんとしておくことが重要になります。協力と支援の取り付けです。というのは、実際に社長になってから、先輩番頭の存在が悩みの種、足かせになる可能性が往々あるからです。完全にボスとして掌握するためには、少なくとも3年は掛かると考えておきなさい。しかも、いくつかのぶつかり合いがあることを覚悟して。
しかし、最良の策は素直に話し合い、協力をお願いすることです。また彼らの処遇、特に幕引きについては、先代社長の仕事になります。

(4)経営確立期で取り組むこと

さて、社長として実際に経営を担当し出しても、当初は先ずは先代の路線を踏襲(とうしゅう)しておくのが無難でしょう。それは次の2つの理由からです。1つ目は、先ず社長としての目で社員の動きをじっくり見る時間をとるためです。2つ目は、社員と経営に徒(いたず)らに困難を生じさせないためです。やはり新人ドライバーは安全運転で行くべきでしょう。お茶の世界に「守・破・離」ということばがあるようです。つまりものごと、特に「道」を極めていくには、最初は教えられたことを忠実に守って実行し、基本が完全にできるようになったら初めて次に自分独自のやり方を試みていき、最後に達人の域に達すればなにごとにも囚われない境地に至るということです。ですから最初は先輩のやり方を忠実にまねるということが大切だということです。

しかし、社長になって必ずしていただきたいことは、経営理念の制定、事業構想に従った中期経営計画、年度経営計画の策定、そして経営会議の組織化と運営による計画の実行管理の実践です。このことは次の(4)で話しましょう。

こうしたことを通じて、自分の考え方を徐々に社内に浸透させていきます。そして本格的な自分の世代における経営政策を実行していくのです。
そして同時に自らの右腕・左腕といった幹部を育成していくことが必要になります。30人程度の会社を運営していくためには、通常5人程度の経営チームが必要でしょう。社長と営業、業務、製造や研究、経理・人事を分担する人たちです。
自分の腹心は、社内で見つけ育てるのが本旨ですが、常々社外に目を向けておき、仕入先、同業者、友人や後輩などの中で有為(ゆうい)の人材の目星をつけ、いざとなればそうした人たちを口説き協力を仰ぐことも考えておきます。

部下の育成は、自分の仕事ですが、これは経営計画の策定とその実行によるいわゆる「目標管理」によって行なっていきます。これが幹部を育成するもっともオーソドックスな方法です。ですから、これらは別の場所で述べますが、会社が 続く限り永続して行なっていかねばならないことなのです。

(5)事業承継対策(いわゆる相続対策について)

以上のこととは別に、2の承継移行期では事業承継対策が重要な課題であり、このことを検討し手を打っていかなければなりません。というのも、中小企業特に本業の経営に専心し成果を上げ、利益を会社に蓄積している企業では、次世代へ事業を承継する場合に相続税の負担という大きな壁が立ちはだかります。相続税というものは、有効な手を打ったか打たなかったかによって、負担に大きな差が出てくるのです。従って、計画的に有効な対策を実施していくことが望まれます。中小企業では、対策を打つべき対象は、何と言っても自社株です。これをどのように次世代に移していくかが課題となります。

また相続税の原資は究極的には会社の収益力と過去の蓄積に頼らざるを得ません。退職金や保険、金庫株の制度などを有効に利用していくことが必要になってきます。
事業承継対策では、承継の方針をどう打ち立てるかが第一の重要事項です。その場合の要諦は、経営の哲学を承継していく資質のある人に包括的に承継させていくということです。兄弟仲良くなどということは、あれば幸いですが通常ありません。ですから、事業を承継する人が決まれば、あとの兄弟にはどのようにして自活していけるかそれなりの考えやほどこしについての熟慮が求められます。

次に重要なことは、家族のライフサイクル、その間の収入や必要な支出、財産の動き、財産の全容などをしっかり掴むことです。全容を掴めばライフサイクルに亘る財務プランを描いて見ます。そうしますと全体像が時間の流れの中で分かるため問題が明確になって行きます。そして株式の移動、どの財産を誰に残すか、老後の生活費、相続税等必要な資金をどう確保しておくかなど、必要な手立てをデザインしていくのです。

大方のデザインができれば、対策を実行していきます。自社株は分散させず、その一子に集中させていきます。相続には、次世代が先に死んでしまって、株がその配偶者に渡ってしまうなど考えれば考えるほど、対策実行を逡巡させる可能性が出てきて、頭を悩ませます。ある程度悩めば、当事者が決断を下すしかありません。株の承継には、持株会社の設立がもっとも効果的です。その理由は、個人が直接に自社株を保有するよりも、持株会社を通じて間接保有する方が、その株の評価額が低くなるからです。ですから、意図的にある時期自社株の評価を下げたり、評価の低い局面などを活用して、一気に株式の次世代への移動を断行することが効果的です。しかし一方では、事業承継対策は、「牛の涎(よだれ)」ともいえます。つまり長い時間を掛けて、コツコツと移動させていくことで大きな効果が発揮されるのです。1年1年が移動のチャンスですから、確実に活用していくことが肝要です。これも会計事務所を良きリード役として、対話を重ねながら進めて行って欲しいものです。

ライフサイクル財務プランの表

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今日のまとめ

他人の飯を食べ、自らの専門を磨き、経理を学び、先代の幹部との関係構築と自らの右腕・左腕の育成しつつ、適切な時期にトップ交代の実現を図りましょう。

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