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御堂筋note magazine

Vol. 9

経営者の役割とは何か?

経営は会社のひとつの機能です。ですから経営者には、明確な果たすべき役割があります。いくら毎日を忙しく過ごしていても、やるべきことをせず、ツボをはずしているとすれば、経営者としての役割は果たせていないことになります。それでは経営をしているとはいえません。ただ雑用をしているだけであり、周りの人にとっては非常に迷惑なことです。経営者として、何が本来業務であるかをしっかりと認識し、日々の業務に優先順位をつけて行動をする習慣を身につけて下さい。そのためのいくつかの考え方をいっしょに見ていきましょう。

(1) 宮本先生のいう経営者の7つの本務

私が教えていただいた会計士コンサルタントの草分けでいらっしゃる宮本嘉興先生は経営者の役割について、次の7つを本務として挙げておられます。

1.業務分野の確定(未来の業務分野を含む)
事業機会の創出、商品分野の確定、そのための技術開発、蓄積の方向性
2.主要な経営成長目標の策定
情報の多角的収集による先見性・洞察力と決断力の発揮
3.組織の発展計画
外部経済環境変化への適応、人材の有効活用による組織活性化、部門間調整のリーダーシップ
4.中・長期計画の策定
商品・市場、事業分野、経営資源の計画、経営改善の方向性決定
5.利益計画、資金計画、予算の決定
具体的な年度計画の策定と実行度チェック
6.研究開発方針および新技術の開発、革新、蓄積とその発展計画
それらのための設備計画の決定
7.後継者及び後継者補完層の育成
経営権と経営能力の継承

以上のうち、特に重要なのが1の事業領域の設定と7の後継者育成の2つです。もし社長がこれら以外の仕事に時間をとられていれば、それは雑務であって、雑務に時間をさかれるほど企業の発展の望みはないといえると、述べておられます。

(2) ミンツバーグによる経営者の10の役割

戦略論などで著名なアメリカの経営学者であるヘンリー・ミンツバーグは、明晰な論理と歯に衣着せぬ明快な切り口で読者を唸らせる私も大好きな著作家ですが、彼はその著書「マネージャーの仕事」という本で、幾人かの経営者の詳細な調査観察を通じて経営者の仕事を体系化しています。そこにおいては、経営者の仕事は、大きな3つの仕事と、10の少し細かく分類された仕事に分けられており、それは情報の収集と流通、その結果必然的になされるべき意思決定という観点から見事に体系化されています。

Ⅰ 対人関係の役割
組織を公式に預かる人だから、権限と肩書きにより特別の職位が生まれる。
1.儀式代表者
公式行事で組織を代表する
2.リーダー
部下との関係でリーダーとなる
3.外部接触(リエゾンと呼ばれる)
外部の人たちと交流し、情報と好意を得る

Ⅱ 情報伝達の役割
対人関係の役割が経営者を情報入手の特別な地位に置く、その結果経営者は組織情報の神経中枢となる。
4.モニター
さまざまな内部情報をキャッチし、統制し、自分の組織を詳細に把握する
5.周知伝達役
さまざまな情報を組織に伝達する
6.スポークスマン
組織の情報を外部に伝達する

Ⅲ 意思決定の役割
情報中枢と特別な地位権限は経営者を意思決定の中心にする

7.企業家
変革を起こす
8.障害処理者
組織が脅威にさらされるときに障害処理をする
9.資源配分者
人・もの・かね等の経営資源を重点配分する
10.交渉者
組織の利益のために交渉役となる

ここでいえる大事なことは、
(1)経営者は外部との接触を大事にしなければならないということです。それは常に必要な質と量の情報に接触しておくということが、企業の意思決定にとって致命的に大事であるからです。
(2)次に、経営者はその外部の情報を企業の内部に伝え、また内部の情報を外部に伝える連結環になるということがあります。このようにして、ともすれば孤立しがちな企業(内部)を外部としっかりつなぎ止め、情報音痴にさせないようにするのです。
(3)そして最後に正しい情報を持つがゆえに、意思決定を行なうということがあります。
この3つの役割をあなたが全うしているかどうか、常に自らに問いかけることが必要です。

(3) ドラッカーの述べる「経営者の条件」

私がもっとも尊敬する経営学者のピーター・ドラッカーも、その著書「経営者の条件」(原題は「効果的な経営者」)の中で、経営者の役割と心構えについて細かく述べているので一緒に見ておきましょう。

ドラッカーは、経営者の職務は、効果的であること、なすべきことを成し遂げるということが期待されているといっています。その地位と持っている知識のゆえに、正しい行動を決定する責任があるのです。
しかし、経営者を取り巻く状況は、コントロールが難しい4つの現実が存在しているがゆえに、効果的たりうることを非常に困難にしています。

それらは、(1)経営者の時間は、すべて他人から侵食される時間である(電話や相談の殺到など)、(2)自分で積極的な行動を取らない限り、日常業務に忙殺される(郵便物、伝票の承認、メールの閲覧など)、(3)経営者は組織の中で働いており、他のメンバーが経営者の貢献を受け入れるように、メンバーの心を動かしていかなければ成果が出ない、(4)経営者は組織の内部にいるため、外部で何が起こっているか肌で感じにくい、という点です。
それゆえ、経営者は、特別な注意を払って効果的な働き方を身に付けない限り、効果的とはなりえないのです。

そこで、ドラッカーは効果的な経営者足りえるために身につけなければならない習慣として、次の5つを挙げているのです。

ⅰ 自分の時間の管理
経営者の時間は、放っておくと他人からの依頼や要請によって食い散らかされてしまう時間です。そこで自分の時間を重要なことがらに優先的に配分できるようにしていかなければなりません。そのためには、先ず自分の時間投下の事実を把握し、その中から時間の浪費を見つけ(これとても、何が浪費かの定義の方法によって大きく範囲が変わってくる)、そして本来の課題にじっくりと取り組むためのまとまった時間を生み出していくように努力と工夫をしていかなければならないのです。

ⅱ 自分に期待されている成果に焦点を当てた行動
経営者は、自分の仕事から目を上げて、組織の目標を見つめ、会社の業績や成果を大きく向上させるために、私が貢献できることは何かを焦点を合わせなければなりません。そのように意識を変えていくことで、部下との関係や、会議・報告の意味合いが違ってくるのです。

ⅲ 部下の強みを活かすこと
経営者は部下や接するあらゆる人たち(例えばネットワークを組んでいっしょに仕事に取り組んでいこうとする人たち)の強みをよりどころにししなければなりません。決して弱みを問題にしてはなりません。弱みはせいぜい補強できる程度だからです。

ⅳ 仕事の優先順位の決定と最優先事項への専心
経営者は、仕事のとりわけ重要性を基に優先順位を決め、その優先順位に従って行動をするように自らを強制していきます。そして優先順位の高いものを先ず完全に実施してから次のものに着手するのです。そうでなければなにごとも達成されません。

ⅴ 効果的な決定
経営者は、意思決定の必要を数少ない重要なものに絞り込んでいくために、「決定」を、その原則を確立しておくことで一般化できそれゆえ自動化できるものと、本当に例外的で戦略的なものとに分けるための見極めをし、自動化の範囲を拡げていくために問題の本質を洞察しておかなければなりません。

ドラッカーの述べる意思決定のプロセスには、次の5つの原則があります。

(イ)問題というものは一般的なものであり、一定の原則を打ち立てることを通してのみ解決されうるということを、はっきりと認識する。
(ロ)回答が満たさなければならない<限界要件>をはっきりとさせる。
(ハ)要件を完全に満たす「正しい」解決策は何かということを考え抜く。(最初から妥協を前提にしたものを考えない)
(ニ)決定自体の中に、決定を実施に移すための方策を組み入れておく。
(ホ)決定が妥当で有効であったかをチェックするためのフィードバックを組み込んでおく。

この中で特に2つのことをお話ししておきます。ひとつは、(ニ)の決定の実行です。決定は、実施に移すために誰かの仕事として割り当てられ、責任がもたされるまでは、決定はなされていないのと同じであると書かれています。
実行の担保が経営の実際においてはもっとも難しいのです。その工夫や具体的方法については別に詳しくお話します。2つ目は(ホ)のフィードバックについてですが、フィードバックというのは結局他人の報告に基づくのではなく、自分の目で確かめることでなされることが適切であるということがいえます。つまり現場主義に徹しなければダメなのです。

(4) バーナードが述べる「経営者の役割」

チェスター・I・バーナードは、組織の本質と経営者の役割を喝破した20世紀前半の記憶に残る碩学ですが、「経営者の役割」という歴史的著書の中で、主として組織における権限の観点から、経営者の心構えについて書いています。 バーナードは、組織を「2人以上の人間が、ある目的を遂行するために協働するシステムの体系」と定義しましたが、その中で組織の存続条件を以下のように喝破しています。

(1)目的の存在
(2)コミュニケーション・システムの存在
(3)メンバーの貢献意欲の存在

 

しかしこれには順序があって、まず(1)の目的が存在し、それを(2)のコミュニケーションを通じてメンバーに納得させて、初めて(3)の貢献意欲が引き出されるということです。この順序を、経営者は銘記しておかなければなりません。

さて、そこでメンバーの貢献を具体的に引き出すためには、メンバーから見て、組織に貢献することで得られる個人的な満足が、そのために犠牲にしたものよりも大きくなければなりません。こうした状況を創り出し、貢献を引き出していくことが経営者の仕事なのです。

組織の目的を遂行していくために、経営者は部下に対して命令を発しそれに従った行動をさせていかなければなりません。そのためには権威が必要です。バーナードは、権威とは、部下に受容されねばならないものであるといっています(「権限受容説」)。つまり受け入れるかどうかを決めるのは部下のほうなのです。

そして、権威が受容される条件は4つあります。それらは(1)伝達内容が理解可能であること、(2)組織目的と矛盾しないこと、(3)部下個人の利害と相反しないこと、(4)部下が精神的、肉体的に従いうること、ということです。

権威の源には、地位、仕事の能力、人間的魅力などが挙げられますが、経営管理を全うするためには、「道徳性の創造」ということをバーナードは力説しています。つまり経営者は、常に自ら襟を正して行かなければならないということなのです。このことも当然のことですが、改めて経営者は肝に銘じておかなければならないでしょう。

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今日のまとめ

経営者の役割は戦略的、長期的な課題に優先的に取り組むこと。自らの仕事を定義し、行動習慣を身につけ、その役割と姿勢を意識しましょう。

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