Vol. 14
大事なお客様との取組みのしかた(1)
お客様との取り組みの基本姿勢
ⅰ.人はなにによってものを買ったり、取引をするのか
事業で成功する人とはどんな人でしょうか?ひとりでする商売から、大企業まで事業は人間がするのですから、その成功の条件は人間が成功するのとおなじことであると私は思うのです。ある人が成功するのは、その人が人気があるからです。なぜある人は人気があるのでしょうか。いろんな原因があると思いますが、ひとつにはその人が他人のしてほしいことをきちんとしてくれるからではないでしょうか。商売を成功させるこつはお客様のしてほしいことにきちんと応えて、お客様が喜んでお金を払ってくれるようにしていくことでしょう。そしてお客様をどんどん創っていくわけです。そのために一所懸命にお客さんの願いを研究し、自分が提供する商品やサービスを工夫するわけです。しかし上でも述べたようにとりわけサービスは大切だといえます。
ⅱ.サービスとは価値観。価値観とはものの考え方、他者に対する関係性についての考え方の表れ
さて、サービスというのは、その人の仕事に対する考え方の現われです。仕事は他人の役に立って初めて意味が出てくるのですから、もの作りなら徹底して使う人の立場に立って使い勝手を工夫し、サービスなら徹底して利便性を追求しなければなりません。その人の姿勢、価値観が隠しどころなく表れるところです。
ところでこの場合、仕事に取り組む姿勢、価値観には2つの立場しかありません。それは、自己本位の立場か他社本位の立場かです。この問題は大変難しい問題で、人が一生をかけて取り組む哲学的問題ですが、次にこの2つの考え方とスタンスと違いを纏めてみました。
(1)自己本位⇒お客様に商品を買わせることができるか?
(2)他者本位⇒お客様に商品を買っていただくことができるか?
自己本位 | 他社本位 | |
---|---|---|
スタンス | 自分は自分、人は人(分離) | 相手の問題は、自分の問題 |
聴き方 | 批判的に聞く | 素直に聴く |
考えること | 相手を批判する、態度を変えさせようとする | 自己を振り返る、自分の行動を変える |
話し合い方 | ディベート、議論 | 対話 |
すること | 無反省に、相手を変えようとする | 反省し、自分の行動を変える |
バック・グラウンド |
自他分離思想 ⇒機械論パラダイム |
自他統合思想 ⇒有機体システム論パラダイム |
この自己本位の考え方は、特に「我考える、故に我在り」として事物を客観的に観察するという考え方を説いた、フランスの哲学者デカルトにより確立した2元論、つまり自分と対象物は分離されたものだとする考え方に由来しています。この考え方はその後の科学や思想の展開に致命的な影響を与えました。ニュートン、マルクス、テーラー(仕事を科学した偉大な実践者で、ドラッカーは20世紀において生産性が60倍も上がり、それゆえ西洋、日本など北半球の人々の暮らしが飛躍的に豊かになったのはテーラーのおかげだと述べています。)などはこうした考え方を代表する人だといわれています。
この考え方は機械論パラダイムといわれています。つまりものごとを機械のように見るのです。そこでは、見る人と見られるものは分離され、ものはなんでも部品に分解され、しかも部品であるがゆえに何でも取り替え可能という考え方になります。つまり私とあなたは別、役に立たなくなれば切り捨てごめんといった考え方です。近代の教育はこうした考え方に支配されてきたため、専らものごとの分析や批判により諸科学や思想が発達してきたと感じられます。そこでは心が置き去りにされてきたのです。その結果いろいろな面で行き詰まりが起こっているといえます。こういう考え方がビジネスに展開されると、上のような自己本位なスタンスになります。その行く着く末は、少し寒々しいものに感じられます。
これに対し他者本意の考え方は、古くから主として東洋にある考え方で、西洋でも2元論に対するアンチテーゼとして、ハイデッカーなどの哲学者たちによって主張されてきました。最近では、物理学、生命科学など様々な分野でこの考え方の正しさを立証する現象が発見されているようです。この考え方は有機体システム論パラダイムといわれています。つまりものごとを1つの全体のなかの部分と見るのです。そこでは、自分は全体と統合され、各部分は相互に依存しあい、部分と全体は相互に補完しあうという考え方です。そこでは、立場の違いが価値を生み、それゆえ出会う相手を通じて自己を知り、組織として相互に創発しあい発展していく性質をもつといった考え方です。こういう考え方がビジネスに展開されたとき、他者本位のスタンスが生まれます。その成果は自ずと明らかでしょう。江戸時代は日本ではこうした考え方に基づく思想的教育がなされてきたのですが、明治以降はこのような価値観教育はなされなくなり、上に述べたような能力教育一辺倒になってしまいました。
ⅲ.仕入先としての自己の価値を正確に掴む
そこで私たちは、自己とお客様の関係性において、自分の価値とは何かということについて真剣に問いかけをしていかなければならないことになります。なぜなら、お客様においてあなたの存在が価値がなければ、あなたは不必要な存在となるからです。お客様の仕入先として、サービスの提供者としての自らの価値は何でしょうか?お客様はあなたの、あなたの会社の何に価値を認め代金を支払っているのでしょうか?それがお客様にとってかけがえのないものであれば、そこに付加価値が生まれます。それこそが本当の意味であなたの売上高となるのです。つまり粗利です。粗利こそが真のあなたの売上なのです。あなたが販売する商品に新たに付け加えた、お客様にとってのあなたの価値なのです。このことは極めて大切な考え方ですので、しっかり覚えておいて下さい。
2. ニーズをとらえる
ⅰ.ヒアリングのしかた
お客様のニーズを捉えるのに最適の方法が先ほど述べたヒアリング、つまりお客様本人に直接聴くという方法です。お客様に素直に聞けば、まず間違いなく素直に答えて下さいますので、ぜひ行なってください。その方法・手順は次のとおりです
(ア)事前の準備
・お客様の業容、概要を頭に入れておく
・担当者などから、最近の会社の業績、抱える問題点などを聞いておく
・キーマンを特定しておく(誰に話を聞くかの決定)
・誰がヒアリングに行くかを決めておく
・ヒアリングシートの準備
(イ)相手の経営者ヒアリング ・お時間をお取りいただいたお礼と訪問の目的を伝える
→貴社を重要なお客様と思っていることを伝える
→当社が貴社の課題を共有して、取り組みをしていきたいこと、そのために率直な おはなしをお聴きしたいことを伝える
→お聞きしたことについては、後日誠実にフィードバックさせていただくことを伝える
・お客様のことが知りたいという気持ちで聴き、相手の価値観を探り掴む
→経営者は孤独でお話好き・・・教えていただく気持ちで聴く
(ウ)相手の担当者ヒアリング
・訪問の趣旨を伝え、現場を巻き込む
・担当者として、現場として困っていることに共感し、問題意識を共有しながら聞く
・現場には解決策がたくさん埋もれている、それを聞き出す
→「じゃ、それ、どういう風にしていったらいいんでしょうか?」
(エ)相手の経営者と担当者の認識すり合わせ
・経営者と担当者の両方がいるところで、両者の意向と認識を確認する
→両者にズレがあると絶対にうまくいかないから、問題は早い目につぶしておく
・個別のヒアリングも一方では必要
→人前では、話せない問題、不安が聞ける場合がある
(オ)ヒアリング結果の整理
・会社に戻りヒアリングの結果をまとめる
→このとき、次に述べる表面ニーズと潜在ニーズをよく見極めること
ⅱ.表面ニーズと本質ニーズ
ニーズの収集に当たっては、表面ニーズと本質ニーズとを良く見極めなければなりません。というのは人間は得てして話したことの背後で本質の要望や欲求をもっているものだからです。しばしば、自分でさえ自分の本質ニーズが分からず、他人から言われて初めて分かったとか、発見してもらったという場合があるからなのです。そういう意味で聞く人が良き1人テニスの壁の役割になってあげられれば良いのです。
表面ニーズと本質ニーズの見極めですが、これは結構難しいところです。相手の反応で、「うーん、まぁ、そんなところかな。」という返事なら、まず本質を突いていないと言えます。また「そう、そう、そう、それそれ、それが言いたかったんだよ!」というような反応が得られれば、これは本質ニーズを突いているといえるでしょう。
ⅲ.ニーズの束→伊丹敬之「見えざる資産」
一橋大学の伊丹敬之先生の本に『新・経営戦略の論理』という本があります。その中で顧客は機能、付帯サービス、価格についてトータル・ニーズつまりニーズの束を持ち、ものやサービスを購入するのは、それがもたらすニーズの解決機能であるとかかれています。このニーズへうまくあわせていく活動を顧客適合と言っています。
その適合には(1)トータル・ニーズへの対応、(2)トータル・ニーズへの変化への対応、(3)顧客ニーズの波及性の利用、の3つレベルがあり、それに従いだんだん難しくなります。いずれにせよトータル・ニーズの把握が必要ですが、その際陥りやすい罠があります。それは(1)顧客の組織の中で意思決定者は誰かを見誤る、(2)自分勝手の思い込みで顧客ニーズを捉えてしまう、(3)顧客の本音はクレーム情報に出るのにそこを改善に結びつけない、という点です。こうした点に注意する必要があります。
トータル・ニーズへの対応としては、上の3つのニーズの何を中心に顧客に訴えていくかを明確にし、核を作ることです。その際顧客は均一ではありませんから、市場を細分化しターゲットを絞り込むことが大切になります。それとともに既存の顧客を「離れにくくする」戦略が重要になります。それはわが社から他社へ転注するための転換コストを高くすることです。つまり他社に切り替えると一からその会社のくせや必要とする商品内容を知ってもらう手間、ヒマがかかる、顧客に再び多くの投資をさせなければならないなどです。
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事業の効果や効率を高めていくためには、既存の重要なお客さまとの関係性をつねに強化して行き、ビジネス・パートナーとなっていくことが大切です。