Vol. 15
大事なお客様との取組みのしかた(2)
取り組むお客様の選定
ⅰ.お客様のグレーティング(格付け)~意義と目的
グレーティング(格付け)とは、サービスや訪問の質量を明確化するために、取引の質量、お客様自体のわが社にとっての重要性、影響度に応じてお客さまを分類することです。事業をしていく上で、お客様をグレーディング(格付け)しておくことは絶対に必要です。盲目的にお客様を神様だと崇め、わけ隔てなく対応するという考え方には組みできません。なぜなら、お客様に頂いている収益に応じて、サービスは提供されねばならず、もしサービスに不足があればいずれ必ずお客様からのクレームとしてはね返ってきますし、最悪の場合はわが社離れを起こすでしょう。また過剰サービスはそのお客様に勘違いを起こすことはもちろん、わが社の社員の有限の時間を過剰に要求しその結果、他の重要なお客様に対するサービス時間の犠牲を強いる結果になるからです。これではお客さまは得をするでしょうが、わが社は痛みを強いられ担当者は身も心もぼろぼろになりかねません。これではお客さまWin、わが社WinのWin=Win関係になれないのです。それゆえ、お客様の重要度に応じて適切にサービスがなされるように、お客様を分類しお客様に対するサービスの質と量をしっかり管理する必要があるわけです。
ⅱ.生涯顧客管理という考え方
生涯顧客管理という考え方があります。これはお客様との取引コストは取引の関係性が深まるについて低減していくという考え方です。なぜ取引が深まるに連れ、取引コストは減り収益性が高まるのでしょうか?それは、お客様との関係性が深まるに連れ、そのお客様のクセが分かりその対処の方法も社内に蓄積され、取引に要する判断、手間や時間が減り、しかもお客様の方もいちいち説明したり要求したりすることがなくなり取引における摩擦やフラストレーションがなくなり満足度が高まっていくからです。
ですから、先ず既存のお客様の満足度を高め永続的なお取引をしていただけるように心を砕いていくことが大切になります。そのためにも、わが社にとって重要なお客様をしっかりマークし、その顧客満足をさらに高めていくための取り組みを行なっていくことがとても大切になるのです。重要なお客様とは、
(ア)わが社の収益の上位80%を構成するお客様
(イ)お客様の経営水準が高く、従ってわが社への要求水準が高いお客様
(ウ)わが社のファンであるか、または口コミのオピニオン・リーダー
としてわが社の宣伝をしていただける可能性のあるお客様のこと
を言います。
ⅲ.具体的基準の作り方
(ア)グレーティング基準の作り方
お客様のグレーティング基準は下の図のように作りますが、そのポイントは分類の定量基準と各分類のイメージやそこに対するわが社の基本的な取り組みや対応のしかたを社員がしっかり理解できるようにしておくことです。
【グレーティング基準の例】
ランク | 分類 | 売上カバー率の目安 | イメージ | 基本方針 | One to Oneマーケティングにおける分類 |
---|---|---|---|---|---|
A | 上位10% | 上位50% | かけがえのないパートナーとして最も重要な得意先 | トップ、管理者、担当者それぞれが、得意先と深くつながり、他社が入ってくるのを防ぐ | MVC(Most Valuable Customer) |
B | 上位20% | 上位80% | わが社のお得意先の中堅をになう2番手グループの得意先 | 潜在的な魅力がたっぷりある場合にはSSとして攻撃、それ以外の場合でもトップの定期的訪問を含め密度のある定期訪問を行なう | STC(Second-tier Customer) |
C | 上位50% | 上位95% | 収益性の少ない目立たない得意先 | 担当者の定期訪問 | |
D | その他 | その他 | 手間が粗利を上回る赤字の得意先 | 訪問禁止を基本として対応 | BZ(Below Zero) |
S | 新規攻略先 | - | 新たに攻略中、または既存得意先の中で休眠の得意先 | 管理者を巻き込んだ集中的時間投下 | |
SS | 重点攻略先 | - | 将来Aランクになる可能性のある得意先として重点的に関係を親密にして行こうとする得意先 | トップ、管理者、担当者の役割分担による集中攻勢 |
(イ)訪問基準
次にグレーティングの分類別に訪問基準を作ります。これは下の図のようになります。訪問基準はそれぞれの立場の人間の訪問頻度を定めることにより、サービスの不足と過剰を統制し、トップと営業部隊の時間管理の基本となりますから大変重要なものです。
【訪問基準の例】
ランク | 社長 | 営業部長 | 営業所長/課長 | 担当者 |
---|---|---|---|---|
A | 1回/1~6ヶ月 | 1回/1~3ヶ月 | 1回/月 | 2~4回/週 |
B |
1回/6ヶ月 ~1年 |
1回/3~6ヶ月 | 1回/1~3月 | 1~2回/週 |
C | - | - | 1回/年 | 1~2回/月 |
D | - | - | - | 訪問禁止、電話注文のみ |
S | トップ訪問による見極め、または表敬 | 部長訪問による見極め、または表敬 | 機動的参画 | 1~2回/週 |
SS | 機動的参画 | 機動的参画 | 機動的参画 | 2~4回/週 |
(5)営業の行動管理
営業の行動管理の全体像の例を下の図にあげます。ポイントは1ヶ月の時間軸の中でいかに時間を構造化して、意図した行動をして行くかです。営業活動が全社の経営計画とリンクし整合性が取れ、効果的であるためには、以下の4つの点に注意して管理を行なっていきます。
ⅰ.1年→半期→3ヶ月→1ヶ月→上中下旬→1週→1日→時間といった連続性を保つ
ⅱ.上司との双方向のコミュニケーションを持つ。これは思い違いによる無駄な行動をなくす、上司へ現場の実態を報告するために大切である
ⅲ.管理サイクル(P:計画→D:実行→C:チェック・反省→A:対策実行)をしっかり回すことがポイントになる
ⅳ.予防管理、未来管理をする
(6)重点お得意先取組み管理
ⅰ.取組み先の選定
まず、これから問題を共有して取り組んでいくべきわが社の存続の成否を握るお客様を選定します。ルートセールスの場合、1人の担当者が持つお客様の数は15~30社くらいではないでしょうか。その中でも3社くらいで売上の80%くらいは占めているものです。そこで上位3社の取り組み内容をきっちりと決め、確実に実行管理をして行けばかなりの成果を出せるものです。最初なら1社でも十分です。そこで日ごろ相手先の要求水準が高く、担当者が敷居を高く感じているお客様を選定します。そこにこそ、お客様の代表的なニーズが存在し、それを満たした場合の波及効果や担当者が自信を持ち成長する可能性が大きいからです。
ⅱ.計画表の作成
下のような取組み計画表を用意し、お客様のヒアリングで特定したニーズ、そしてともに取り組むゴール、そのための方法手順を明確化していきます。その上で今後半期程度の月別の具体的取組みの内容を作成していきます。これらは上司や同僚との集団による検討を経て、お客様への確認と承認をいただき、実行管理の拠り所とします。計画表では、ニーズから導き出されるゴール、そのゴールを達成するための具体的なプロセスが明確になった方法・手段が記され、それが半年なら半年のスケデュールとして具体化されていることが必要です。
ⅲ.実行管理
ドラッカーも述べているように、意思決定の実行段階がもっとも時間がかかり、困難な局面です。上述の行動管理で話したようにP→D→C→Aの管理サイクルをいかに回すかがポイントです。そのためには当然本人の取組みに対するコミットメントが必要十分な条件ですが、そのためには本人に対する的確な動機付けがまた重要になります。これは、(1)目的の鼓吹(こすい)、(2)具体的なやり方のOJT、(3)当人を孤立させない上司とメンバーの問題共有と適切なフィード・バック、によってなされます。特に個人面接やチームによるフォロー・アップの場を持ち、集団で学び、レビューと支援をしていくしくみが不可欠となるのです。
(6)主要取引先とのトップの継続関与
繰り返しになりますが中小企業はトップ営業が重要です。トップ以外に仲々顧客開発力のある人材を得ないというのが実情です。そのため中小企業では営業は社長が統括して行かなければなりません。そして当然に主だったお客様とは個人的にコミュニケーションを確立し、関係性を深め、定期的な交流、訪問、取組みがなされなければなりません。 もし、中小企業においてトップが重要な顧客の営業の窓口として機能していないとすれば、その会社の顧客基盤ははなはだお粗末な状況といえるでしょう。そこで社長は、常日頃よりこのことを意識し、問題の解決者、個人的友人、愚痴の聞き役、飲み友達などとして主要顧客との親しい人間関係を構築しておかなければならないのである。
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事業の効果や効率を高めていくためには、既存の重要なお客さまとの関係性をつねに強化して行き、ビジネス・パートナーとなっていくことが大切です。